
中澤 嵩 准教授
数理科学ユニット / ユニット長
元々は応用数学が専門です。とはいっても数学にどっぷり浸かるよりは、工学の人や産業界の人と一緒に仕事するのが好きです。
人工透析に使う人工血管の研究を手がけたことがあります。人工血管を繋ぐと、繋いだ先の静脈が細くなって血栓を生じてしまうことがよくあるのですが、原因がわからず医師たちは困っていました。
計算してみると、血液の流速が早くなりすぎて血管の中に渦が生じてしまうことが原因らしいとわかってきました。渦に静脈の壁が吸い込まれて狭窄が生じるのです。
そこで人工透析に適した人工血管を設計しようと、生体工学や、血液の流れを解析する流体工学、設計工学、高精度な計算を担当するスーパーコンピューティングの研究者、新しい数学的な枠組みを作る数学者などを引きこんで、一緒に研究したことがあります。血栓ができない最適の形状はどんなものか探ったら、上流側と下流側で非対称になっている形が、血栓をおこしにくいことがわかりました。


他分野の人と一緒に仕事をする面白さは、大学院のころ留学していたフィンランドで初めて経験しました。現地では国立環境研究所のようなところで流体のシミュレーションを学んでいました。そこでは、川や湖の汚染対策について、化学、生物、統計、湖の循環のシミュレーションなど、さまざまな分野の専門家がチームを組んで検討していました。そのミーティングなどに加わって、いろんな人が混ざっているプロジェクトの魅力を知ったのです。
MMDSの良い点の一つは、多様な専門分野を持つ教員が所属しているところです。高野渉先生はロボティクス、松原繁夫先生はAI、朝倉暢彦先生は認知科学という具合です。
他の大学では、データサイエンスを教えている教員は、統計学出身の人が多いと思います。一方、MMDSは教員の専門分野が幅広いので、データサイエンスの授業にも多様な内容が盛り込まれています。学部1年生向けの授業でも、ロボットの話があったり、脳を電極で計測して視覚や聴覚の信号をとらえて解析する話があったり、私の場合は流体の計算の話にも触れたりします。

教員がそれぞれ専門を生かして、一般的な統計入門にとどまっていないところは、他の大学に比べて魅力的だと思います。
また、学部生の一般教養の教育だけでなく、高大接続、大学院生の教育、社会人のリカレント教育まで広く手がけていることも、他の大学と違うところでしょう。
阪大だけでなく、近畿や中四国地方の国公私立大学と共同で、PBL (Problem Based Learning) をしています。
提示された課題を、数理・データ・AIの知識や技術を駆使しつつ、グループワークで解決していく道筋を体験するものです。産業界から準備してもらった実地に即した課題に取り組めるように念入りに準備しています。多くの参加大学の先生方の協力を得ることができまして、2021年は7大学から教職員含めて130人くらい集まりました。

参加する学生は学部も学年もバラバラなので、プログラミングや機械学習などの習熟度にあわせて3つぐらい課題を用意しています。初日の課題提示と、最後の成果発表は一緒にやりますが、真ん中の部分は各大学の日程で進めてもらっています。
他の大学が課題にどんなアプローチをしているか、自分たちとどう違うのかなどの関心も高いようです。進捗状況を互いに教えあうための交流や、情報交換をしたいという要望ももらっています。そんな場を増やして、みんなで一緒にわいわいやりたいですね。
PBLは、どちらかといえば学部生向けの学びの場です。大学院生レベル向けには、スタディグループ(企業との共同研究)という取り組みも用意しています。PBLより難度の高い、どこから手をつけていいのかわからないような課題を企業から持ってきてもらって、教員と企業の人と大学院生が一緒になって考える場です。

こちらもPBLと同様に、数理・データ・AIの知識や技術を活用しますが、より実践的になります。大学で日々、生み出される新しい技術(シーズ)と産業界における未解決課題(ニーズ)を上手く組合せつつ、参加する大学院生には大学では体験することが難しい実務的な課題に対してアカデミックな手法で解決の糸口を探ってもらえるように運営しています。また、このスタディグループを契機に、大学と企業との関係をより深める一助になればと期待しています。
PBLやスタディグループで、各参加者の間の調整するのは大変ですけれども、参加するみんなにメリットがあるように苦心しています。大学だけでなく、産業界の人たちとも話し合い、たくさんの異質な人たちが集まると何が起きるのか、見ていくのは楽しみです。

2022年1月インタビュー:新型コロナウイルス感染症対策のもと取材・撮影を行いました。