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Interview 01

Interview 01
朝倉 暢彦 特任教授

大阪大学 数理・データ科学教育研究センター
数理科学ユニット / ユニット長
どんな研究をされているのですか

専門は心理学で、主に視覚の研究をしてきました。立体を見る時、脳は少ない情報から連続な面を復元して認識しています。その仕組みを探るような研究です。
学部生時代は文学部哲学科です。心理学の研究室は哲学科に属していました。哲学は少しもわからなかったのですが、視覚に関する講義がとても面白かったのが、この道に入るきっかけです。捕色や残像などの感覚的なものが、理論と数式で説明できることにとても惹かれました。元々数学が好きなので、そのころから行動実験や数理モデルを使って研究しています。
最近は、人の意図を推定するなどコミュニケーションにかかわるモデルづくりも手掛けています。その際、表情などのデータを手がかりにするのですが、データと心の中は、もちろん一対一で対応しているわけではありません。表情のような曖昧な、限られたデータをうまく扱うには、ベイズ推定を使うのが適しています。ベイズ推定は、AIや機械学習で広く使われるようになりましたが、視覚研究では元々馴染みのある数学的な手法です。その蓄積をヒトの行動データの解析、心的状態の推定などさまざまな分野に活用しています。

学部の教養教育ではどんなことを教えておられるのですか

学部生むけにデータサイエンスの基礎を教えています。受講しているのは1回生が多く、文系理系は半々ぐらいです。
データサイエンスは、いろんな学問の基礎、読み書きに相当するとも言われていますが、実はちょっと違うと思っています。本当は数学が大切なんです。数学さえきちんと勉強しておけば、極端なことを言えば、統計やデータサイエンスは教科書を買ってきて自分で勉強することだって可能です。
ですから講義では、重要なところは微分や積分の基礎的な考え方まで立ち返ることも挟み込みながら、データサイエンスの基礎を教えるようにしています。
しかし、数式だけでは味気なくて学生はついてこられないかもしれない。そこで実例や応用例も盛り込んで、ビジュアルで理解を助けながら、数学を面白いなと思ってもらえるように工夫しています。
たとえば検定について教える時は、視覚のパターン認識と関連づけ、ノイズと信号の情報処理をする時に数式がどう使えるかを示しています。弱い信号が見づらくなる、揺らぐ、そんな変化と数式がどんな関係を持つか、直感で理解できるようにしてあげるわけです。すると文系の学生でも「なるほどそうなんですね」「わかった」と腑に落ちてくれる学生は多いようです。

私は、数学を独学で学びました。大学院に入る前に、工学部向けの数学教科書を買ってきて、1ページ目から練習問題を解いて、失敗したらまた最初に戻って、全部また解けるまで繰り返すスタイルで、線形代数やフーリエ変換ぐらいまで1年ぐらいかけて続けました。そうやって研究につながる数学の使い方をなんとなくつかんだ。その時の経験で、学生がつまずきやすい“難所”の見当がつくので、そこを乗り越えやすいように教えています。 阪大のMMDSは、教員の専門分野に多様性があります。受講する学生にとっては選択肢が広いのは魅力でしょうね。

社会人向けの教育では何をされているですか

学部生向けに工夫して構成したデータサイエンス基礎の講義は、社会人の人もe-Learning やオンラインスクーリングで受講してもらうことができます。一般社団法人数理人材育成協会 (HRAM) のリスキリングコースの一つです。
それとは別に、少人数のゼミ形式でも、社会人を対象にしたプログラムを担当しています。MMDS高度AI人材育成プログラムの一科目で、人とAIがもっとより良い関係を結べるような技術を開発しようという勉強をしています。
社会人の方の受講動機は、自分の今の業務に生かしたという方と、新しいスキルを身につけて、転職などを考えたいという方がおられるようです。
今の業務に活かしたい方には、解決したい問題を教えてください、その方法を、一緒に探りましょうという形で進めています。こんなモデルがありますよ、こんなシミュレーションができますよなどと教えています。
スキルアップをはかろうとしておられる人には、こちらから何通りか、認知科学やAIを使った話題を紹介して、興味にあわせて課題を設定し、指導しています。
その一つで、これまでヒトを対象にしてきた認知心理学や実験心理学的な手法を使って、AIの特性を研究するというテーマも社会人の方と取り組んでいます。AIはブラックボックスとも言われますが、人間の方がもっとわかっていない。その研究に使われてきた手法なら、AIの内面に迫れるかもしれないと、社会人の方と一緒に、研究を楽しんでいます。

2024年1月インタビュー